はじめに
歯科医院の開業には多額の資金を必要とします。特に医療機器が高額なため、最低でも5000万円程度の開業資金を準備する必要があります。例えば、チェアユニット3台とレントゲン設備で2000万円ぐらいは必要になってきます。開業するにあたって、この開業資金をどのように準備するかが課題です。全額を自己資金で準備することは現実的ではないので、一般的には金融機関からの借り入れなどを利用します。今回は、この金融機関の利用方法と開業資金調達のコツをご説明していきます。
資金調達先の種類
開業資金の調達先には、おもに次の5つがあります。
・自己資金
・親族からの支援、贈与
・金融機関からの借り入れ
・リース
・クレジット(割賦)
これらを順を追って説明していきます。
自己資金
開業される多くの先生は、勤務時代に貯金をして自己資金を準備されます。一般的に500万円から1000万円が多いです。自己資金は多いに越したことはありませんが、貯めるまでに随分時間がかかると思われますので1000万円くらいあれば十分です。自己資金を貯めるために時間をかけすぎると、機会損失にもなります。
これは金融機関からの借り入れで早く開業して、早く収益を上げていった方が経済的に早いと言うことです。また、自己資金が多いほど金融機関からの資金調達はスムーズになります。
親族からの支援、贈与
開業にあたって親族からの支援を受けることができる先生もいらっしゃいます。ご両親からの資金援助のことです。多くの資金が必要となる歯科医院の開業ではとても助かることなのですが、注意点もあります。それは想定外の税金がかかる場合があります。親心からの資金援助なのに、税金がかかる事態になってしまっては最悪です。そのような最悪のことにならないような手続きをキチンと踏んでおく必要があります。
では、なぜ税金がかかるようなことが起きるのか? それは親からの資金援助が「贈与」とみなされる場合があるからです。その資金援助が、「貸し借り」か「贈与」かの問題になるのです。その資金援助は、開業資金を貸したのではなく、「あげた」のですよね、と税務署にみなされて贈与課税をうけるのです。そうなると贈与税が発生します。実態は、親が子に開業資金を貸したのに手続きをキチンとしておかなかったので、このような税金が発生する場合がありますので要注意です。
では、どうしておけばいいのか? それは、開業資金を貸しているのならば、親子間で「金銭消費貸借契約書」と「返済予定表」を作成しておけばいいのです。勿論、返済も予定表通りに行ってください。
開業資金の支援ではなく贈与の場合は、贈与税がかかってきますので申告が必要になります。申告を忘れていると、ペナルティの税金がかかってきますので要注意です。贈与の金額によっては、税負担が重くなる場合がありますので、事前に税金の試算をしておくことをオススメします。
金融機関からの借り入れ
金融機関とは、おもに銀行と公庫のことを言います。開業される場合は、一般的に銀行から資金調達される先生が多いようです。公庫とは、政府系の日本政策金融公庫という金融機関のことです。
開業される場合は、歯科ディーラーや銀行の開業支援を受ける場合がほとんどだと思います。金融機関の中には、開業支援をする医療チームをもっている銀行もあり、診療圏調査から融資までお世話してくれるので一気通貫で開業準備を進めることができます。また、歯科ディーラーに開業支援を依頼されている場合は、ディーラーからの紹介などで金融機関を決めていくことになります。
金融機関選びはとても重要です。歯科向けの融資実績があるかどうかによって、金融機関の対応が変わってきます。実績が少ない金融機関では、融資がスムーズに行かない場合がありますので金融機関選びは最重要課題です。融資が整わないと開業できないからですね。
リース
歯科器材などの設備投資をするための資金調達方法は、金融機関からの融資だけではありません。リース取引を活用することもできます。リースとは、企業などが選択した機械設備などをリース会社が購入し、その企業に対してその物件を比較的長期にわたり賃貸することを言います。つまり、歯科医院側からみると、歯科器材をリース会社から借りていると言うことです。借り物に対して使用料を支払っていきます。一般的にリースの審査が融資の審査より優しい傾向にあります。とても有効でポピュラーな資金調達方法のひとつです。
クレジット(割賦)
歯科器材などの設備投資をする時に、クレジット(割賦)の活用もできます。クレジットは、みなさんにも馴染みのある取引ではないでしょうか。商品代を分割払いで支払う取引です。割賦取引とも言います。歯科器材などをクレジット会社を通して購入し、クレジット会社へ分割払いしていくという仕組みです。この場合は、リース取引と違って歯科器材などの購入になりますので、自己所有物件となります。
おわりに
歯科医院の開業にいくら必要で、どのように調達するのか? これが開業準備中におとずれる最初で最大の課題です。資金調達の目途が立たないと開業はできません。この大きな資金調達を確実にするためには、きちんとした「事業計画書」が必要になってきます。金融機関は、その事業計画書に基づいて、その歯科事業が見込みあるものか? 院長に経営能力があるのか? を見極めていきます。事業計画書は、成功へのロードマップです。
また、資金調達の方法にはいくつかの種類がありますが、必ずしも開業資金の全額を金融機関からの融資に頼る必要もありません。ケースバイケースで融資の限度額を査定されますので、不足の場合はリースなどを積極的に活用すべきです。設備投資の種類によっては、リースの方が適していることもあります。リースを活用した分については、金融機関の融資限度額を温存しておくことになりますので、次に何か資金調達の必要が出てきた時の可能性が広がることにもなります。
このようにいくつかの資金調達の方法を臨機応変に活用していくことが、多額の資金を必要とする歯科医院の開業にとって大事なことです。